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茨城県 筑波山で登山・ハイキング/コース&観光ガイド

Journal筑波山ジャーナル

2019.09.04| Book Review

Mount Books #04
そこは正直になれる場所
—『山からの絵本』辻まこと

家の中でも、都会の真ん中でも。開けば心は、山の世界へ。そんな、気持ちのいい山の本を紹介するMount Booksのコーナーです。

辻まことをご存知だろうか。1913年、福岡県生まれ。素晴らしい詩文を綴りながら画才に恵まれ、自然を愛する登山家でもあった。ギターを手にすれば巧みにつま弾き、読書を嗜む。まるでスナフキンのようではないだろうか。生前のうちに有名になることはなかった辻だが、亡き後に再評価され、没後半世紀近く経った今でも、人の心の琴線に触れ続けている。

彼が生前に出した画文集は、「山からの絵本」、「山の声」、「山で一泊」の3冊。なんとも言えず素朴で味のある絵と散文は、静かで自由な精神が広がっている。山好きに限らず、沢山の人に読み継がれ愛される所以だろう。代表作とも言える「山からの絵本」では、ほのぼのとした山の話と53枚の絵が楽しめる。山で行き交う人々との温かな交流、森で出会うユーモラスな動物たち…。

当時の山登りは今とは少し異なり、命をかけつつも、どこか牧歌的で時間がゆっくりと流れているようだ。「本当に正直になれるところは、山だけだったと思う」と、生前に甥に語っていたという辻。こんな話がある。友人と連れ立ってキノコ狩りに出かけたところ、クマと出会ってしまう。無事に立ち去り事なきを得るのだが、舞茸を探す気力を失い、向こう1年にわたりクマノイローゼにかかってしまう。クマ避けに大声で歌いながら登山していると、友人に茶化される。笑える状況でないのは承知の上で、彼の微笑ましい人柄を垣間見られるのではないだろうか。

文/峰典子

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