2023.06.02| Book Review
家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。今回は、2020年に亡くなった田渕義雄さんの名著『メイベル男爵のバックパッキング教書』。1982年に出版された本著、山道具のピュアなエッセンスを再発見させてくれる一作です。
1944年生まれの田渕義雄さんが亡くなったのは、2020年のことである。アウトドアや釣り、そして森や山という自然の魅力を、唯一無二の世界観で文や絵に残した氏の著作『メイベル男爵のバックパッキング教書』が、38年ぶりに復刊されたというから手に取ってみた。共著者はアメリカのコミック作家で、やはり釣りと山と鳥を愛してやまないシェリダン・アンダーソン(おそらくヒッピー)。
アウトドアにふけり、「ごくごくたまに」書きものの仕事をやっつけている、という二人が綴るのだから、面白くない訳がない。前半はシェリダンによる漫画。一コマ漫画のようなイラストに、ぎゅっと短いお役立ちコラムが並んでいる。独特のユーモアとウィットに富んでいるし、初心者や子供に向けたような眼差しが優しい。
後半の田淵義雄パートの文章は、これまた名言のオンパレード。
なんせ1982年の本なので、勧めているグッズは古い。しかし、その根っこにあるものはいつまでも古びることがないのだろう。ヒートテックや軽量ギアなんかがどんどんと開発される昨今、いつしか忘れそうになっているピュアなエッセンスみたいなもの、それを再発見させてくれる文章なのです。後半と前半、バラバラの本だったとしても間違いなくいいものだっただろうけど、似た者同士の二人の文章が同時に味わえるのが、何より嬉しい。
文/峰典子
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『メイベル男爵のバックパッキング教書』
シェリダン・アンダーソン&田渕義雄 著 / 晶文社 刊