2023.04.03| Book Review
家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。今回は、panpanyaさんの漫画作品集『おむすびの転がる街』。なかでも「筑波山観光不案内」は、筑波山に行きたくてたまらなくなってしまう一篇です。
明け方ふと目を覚める。なんだか心地よい夢を見ていたような気がして、続きを見るために二度寝に耽る。夢の中だという実感がありながら、すごく生々しくて、もしかしたら現実かも、とも思う。まるでそんな感覚とでも言えばいいのだろうか。この方の漫画、境界線が曖昧なのである。どの話も主人公の身の回りで起こるのだが、それは見慣れた日常によく似た別世界。街の裏路地や看板、街路樹、ふとしたところにある階段などに着眼し、リアルファンタジーへ連れていってくれる。
「筑波山観光不案内」は、きっと猛烈に筑波山に行きたくなるであろうストーリー。商店街の福引で筑波山の旅行券を手に入れた女性が“喋る旅行券”の案内で筑波山へ向かう。ケーブルカーで頂上を目指すが、そこで出会った土産物をきっかけに思わぬ出会いが…。まるでエッセイのように書き進められているので、作り話のはずなのにほんわかし、懐かしい気持ちに駆られる。
昔話のおむすびころりんを実践しようとする表題作のほか、「坩堝」「ツチノコ発見せり」「新しい土地」など、独特の感性が光る16篇。強く心に深く残ったのは、著者が山崎製パンの菓子パンにどハマりした話「カステラ風蒸しケーキ物語」。あまりにも大絶賛されているのですぐにでも食べてみたくなったのだが、残念ながら現在は生産終了しているとのこと。ブログを拝見したら、同じ味の再現レシピに尽力されているようなので、ぜひ試してみたい。
文/峰典子
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『おむすびの転がる街』
panpanya 著 / 白泉社 刊