2022.05.10| Book Review
家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。今回は、全長3500㎞のアパラチアン・トレイルを一人で歩ききった伝説のおばあちゃん、エマ・ゲイトウッドのスルーハイクを描いた一冊です。
ウルトラライトハイキングとよばれるハイキングがあることを初めて知りました。アメリカに数多くあるトレイル(自然遊歩道)の中には、数百キロから数千キロにも及ぶ長大なロングトレイルがあり、そんな遊歩道を一気に踏破することをスルーハイク(Thru-Hike)と呼びます。
1955年のこと。北海道の最北端から沖縄の最南端の島までをつないだのと同じ距離、全長3500㎞のアパラチアン・トレイルを一人で歩ききった伝説のおばあちゃんがいました。その名は、エマ・ゲイトウッド(1888-1975)。そのスルーハイクの様子を描いた絵本が「エマおばあちゃん、山をいく」なのです。
70歳近く、登山経験のない女性が、しかも一人で。その軽い装備にも驚かされます。Kedsのスニーカー、レインケープ、テント代わりのシャワーカーテン、毛布、セーター、簡易クッカー、安全ピン、針と糸、石けん。これらを手製の袋にいれ、肩に担いで、4か月半の間、休まずに歩き続けたのです。農場暮らしで培った体力があったとはいえ、なんでもトライしてみようというエマおばちゃんのロックな生き方は爽快で、かっこよすぎる。読めばファンになること間違いなし。
トレイル各区間の地形の特性、そこで起こったエピソードも補足してあるので、大人でも十分に楽しめます。さて、このアパラチアン・トレイル。ほんのちょっとの距離でいいので、いつかエマと同じ景色を眺めてみたいものです。
文/峰典子
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『エマおばあちゃん、山をいく 〜アパラチアン・トレイルひとりたび〜』
ジェニファー・サームズ著 / まつむらゆりこ訳 / 廣済堂あかつき刊