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茨城県 筑波山で登山・ハイキング/コース&観光ガイド

Journal筑波山ジャーナル

2022.05.09| Book Review

Mount Books #19
最高峰の山で青年たちが育む友情と夢
—『冬のデナリ』西前四郎

家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。今回は、「偉大なるもの」を意味する北米大陸の最高峰、冬のデナリ登山に挑む若者たちを描いたノンフィクション小説です。

「偉大なるもの」を意味する北米大陸の最高峰デナリ。高さこそエヴェレストのそれに及ばないものの、寒さが厳しい時には-50℃、風速50mという凶暴な顔を覗かせる。その環境の悪さから、誰も挑戦しなかった未知の領域[冬のデナリ]に、著者である日本人を含む多国籍メンバー8人が挑んだ、ノンフィクション小説である。

登山隊に加わり、仕事を辞める覚悟で日本を飛び出してきた若者ジローと、大学を休み、バックパック一つでヒッチハイクをしていたアメリカ人アーサー。二人はひょんなことから意気投合し、あちこちの山を一緒に登る。そして冬のデナリ登頂という野心的な計画を思いつき、仲間を探し始めるが…。

「やることは一つだけさ。どんな可能性があるか一つ一つ、とことんまで試してみる。諦めないんだ。動くんだ。最後まで」

登山に詳しくない私の様な人間でさえも魅了されてしまうのは、やはり事実ゆえの重みからであろう。登山とは、肉体的な力もさることながら精神の勝負である。身体能力よりも意志力が、時には神頼みの瞬間も訪れる。強くて弱い、人間のナマの姿に強く惹かれる一冊である。

この実話を物語に昇華するまでに、著者は30年もの時間を費やしたという。それは「そこに参加したことを誇りにしながら、一方では、嘆き、悲しみ、怒り、屈辱など人の記憶の中にある感情の檻を扱いかねて」いたから。自分の代わりにジローという若者を登場させ、語り部とすることができた。中高生向けの文庫だが、年を重ねて読む大人にはまた違う味わい深さがあるだろう。

文/峰典子


『冬のデナリ』
西前四郎著 / 福音館書店刊


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