2021.04.26| Book Review,MountBooks
家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。今回は、イラスト・執筆・芸術表現の分野で活動する一方、山伏としても活動する坂本大三郎さんの著作をご紹介します!
物語の中に登場する山というと、仙人や魔女といった、街の暮らしに馴染めない者のイメージがあるのではないだろうか。実際、昔から山には集団生活を避けた人間が住んできたという。言うなれば、落ち武者や山伏などである。厳しい山の生活に耐えながら暮らすことは、それだけで修行のようなものだったはずである。
東京で芸術に関わる仕事をしていた著者は、30歳で山伏に出会う。山伏とは、山に伏す(寝泊り)することに由来があり「聖地とされた厳しい山で修行をし、験力(げんりき)といういわゆる超能力を獲得することを目指す人たち」だという。かつての日本には山伏が約17万人もいたと読み、驚いた。
この本では、日本各地の山に伝えられてきた神話や民話が綴られ、山岳信仰の根源を掘り起こそうとしている。語弊を恐れずに言うならば、時代錯誤とも呼べる物語の数々。しかしそこには、希望に満ちた厳かな灯火のようなものが垣間見える。「『前代の人生観』を炙りだしてみることはできるのではないかと僕は思います。」―「まえがき」より
なぜ富士山を神と崇めるのか。かつての日本人は山に何を感じ取っていたのか。景観や植物という自然科学だけでなく、民俗で山を切り取ることで、これから山に出向くにあたり、目線が変わるのを実感することだろう。
文/峰典子
*
『山の神々 伝承と神話の道をたどる』
坂本大三郎著 / エイアンドエフ刊