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茨城県 筑波山で登山・ハイキング/コース&観光ガイド

Journal筑波山ジャーナル

2019.08.06| MountBooks

Mount Books #03
『帰れない山』〜三人の男の人生、山の愛し方。

家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。

イタリア文学界最高の賞であるストレーガ賞を受賞した「帰れない山」の舞台は、北イタリアとスイスの境界線にある、名峰が連なるモンテ・ローザである。

ミラノで暮らす少年ピエトロは、毎年夏になると、両親とともに、その裾で休暇を過ごしていた。あるとき目の前に現れたのは、干し草の匂いをまとった牛飼いの少年ブルーノ。惹かれ合う二人は、いつしか沢登りや森の探検へと繰り出して行く。

ピエトロの父親は、古いミリタリーリュック、コーデュロイの膝丈パンツ、赤いセーターという出で立ち。都会では厳しく、夏の間だけは饒舌になる。父は二人を兄弟のように扱い、登山の手ほどきをし、ある夏には三人で氷河の眠る頂を目指す。しかし、思春期になりモンテ・ローザを訪れることもやめたピエトロは、ブルーノと会うこともなくなり、父との登山も絶ってしまう……。

そこから物語は細く長く続く。生き方は三人三様なのだが、煮え切らない会話や不器用さは共通している。バラバラになった糸を引き合わせるのは、やはり山の存在だ。随分と男臭い話に思われるだろうが、そうでもない。登場する女性陣たちが柔軟で力強く、男性と対照的に描かれているのが面白い。

雄大な自然の中でのチーズ作りや家を建てる様子など、山の暮らしも丁寧に描いている。それもそのはず、作者のコニェッティ自身、幼い頃から父親と一緒に登山に親しみ、現在も1年の半分はモンテローザ近郊の山岳地帯で自然と触れあいながら作家活動に打ち込んでいるという。主人公のモデルは間違いなく自身なのだろう。また、翻訳家の関口英子さんも、沢ガニや蛍が潜む山間集落で暮らしているそう。北イタリア山岳地帯の美しい情景がありありと浮かびあがる翻訳もすばらしい。

(文/峰典子)

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