2022.09.05| Book Review
家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。今回は、闇を楽しむ歩き方……ナイトハイクの醍醐味とノウハウが詰まった一冊をご紹介します。
心に落とす影のことを闇というように、闇には恐ろしさを感じることがある。子どもの頃、寝る前に眺める天井が遠く深く、どこまでも続きそうな気がしたものだ。
著者はアルプス登山の帰り、うっかり高尾駅で終電を逃してしまう。暇を持て余すあまり、深夜の高尾山に向かってみる。なんていったって、簡単に登れることで有名な山だ。幼児だって登れるのだから…と思っていたら、いきなり足がすくむ。右も左もわからない。しかし、怖さの中で目が慣れてきた瞬間に、幻想の世界が広がっていたという。それ以来「闇歩き」に目覚め、手軽なナイトウォークから、朝まで歩くミッドナイトハイクなど、ツアー主催も手がけるようになった。
今の暮らし、特に都心で暮らす人にとって、暗闇は未知である。夜中でもコンビニや街灯が道を照らしているのだから。だから、不慣れな場所で視覚を補うために、嗅覚や触覚、聴覚を研ぎ澄ます必要がある。「夜の美しさがそこにあることに、心を打たれずにはいられない(略)ドキドキしてワクワクして、新鮮で感動的だ」。相手の顔が見えにくいから、不思議と緊張感から解放されて、つぶやくように話ができるというくだりも面白かった。
先述の高尾山から、箱根山、はたまた八丈島まで、闇を楽しむ歩き方のノウハウが詰まった一冊である。夜が怖い、と足がすくんでしまう人のために、お風呂で楽しむ闇や、自宅プラネタリウムまで、闇うんちくガイドブックとしても十分に楽しめる。
文/峰典子