2022.04.27| Book Review
家の中でも、都会の真ん中でも、筑波山でも。開けば心は、山の世界へ。山がもっと好きになるブックレビューのコーナーです。今回は、西海岸の森に住んでいる鹿を主人公に、山火事のあとを生きる森と動物の再生物語をご紹介します。
世界各地で山火事が猛威をふるっている。ブラジル、ギリシャ、カリフォルニア…。オーストラリアで起きた大規模な火災では、多くのコアラが火傷を負った。その姿に胸を痛めた人も多いだろう。
そもそも自然発生する山火事というものは、大切な役割を担っている。倒木や枯れ草、枯れ葉が燃えることによって、土に栄養を与えることができるから。しかし近年では、気候変動によって干ばつが長引くことがあり、その結果、森の可燃物が増えすぎて、火事が大規模に。また人為的な原因も破壊的な大火災を引きおこしている。
絵本『わたしたちの森』の主人公は、西海岸の森に住んでいる鹿。最高時速およそ22.5キロメートルのスピードで拡大していくという山火事の炎。そんな山火事のなか、動物たちはどうしているのか。そして、どのように生きていくのだろうか。この本は、山火事のあとを生きる森と動物の再生物語である。
悲しみと強さがしみじみと伝わってくるような訳を手がけたのは作家・小手鞠るいさん。自身も30年ほど前からアメリカウッドストックの森のなかで暮らしており、エッセイ『空から森が降ってくる』では、四季の移ろいや近所を駆け回る野生動物について折々を綴っている。こちらも合わせて読んでみると、一層と森が身近に感じられるはずだ。
文/峰典子
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『わたしたちの森』
ジアナ・マリノ著 / 小手鞠るい刊 / ポプラ社刊